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友人AKI、東京でプロ グラマーをしています。「コラム書いてよ」って言ったら快く引受けてもらいました。詩的コラム、いつまで続くか分りませんがAKIワールドをお楽しみ下さい。
PROFILE
NAME:
AKI
職業:
システム・エンジニア
血液型:
B型
星座:
やぎ座
趣味:
読書、音楽鑑賞、映画鑑賞
現住所:
東京
出身地:
沖縄
所有パソコン:
IBOOK、THINK PAD 760E
今吸っている煙草の銘柄:
HI-LITE、たまにGAULOISES
嫌いなもの:
演歌

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 東京テイスト【EGO 】
2002/5/29/WED
[
一枚の白いシャツ]vol.3
ベランダに面したガラス戸はすべて開け放たれていて、そこからは海風がときおり入り込んでくる。
それに呼応するようにときおりカーテンが揺れる。
太陽はすでに、その全体を海の上にのぞかせている。
そしてベランダに置かれているパイプ椅子の上では、白いシャツが海風にはためている。

彼はあらためて彼女のいなくなった部屋を見渡してみた。
そこはもともと、彼女が持ち込んだ化粧台や衣装棚などが置かれていた、おもにお互い洋服部屋として使っていた部屋だった。
他には、彼女の好きだったルルーシュの映画のポスターと、ブラッド・ピットのポスターがかかっていた。
今はそれらがきれいさっぱりとなくなっていた。
それらがあった空間には、まだうまくまわりの雰囲気になじめていないような、なんだかそこだけ空気の密度が薄いような、そんな雰囲気が漂っていた。

しばらくの間そんな空間を眺めていたあと、彼は意を決して部屋の整理にとりかかった。
整理をはじめてみると、かつて彼女の持ち物だったものは、やはりこの部屋にはもう何も残ってはいなかった。
彼は洋服ダンスのなかをのぞいてみた。
そこには彼の衣類だけが詰め込まれていた。
ただ、もともと彼の持ち物で彼女と共有していたものだけは、そのまま彼のものとしてそこに残っていた。
そしてそのなかには、以前二人で海辺へ小旅行をした時に彼女が着ていた、白いオックスフォードのシャツも含まれていた。
彼はそのシャツを取り出すと、それを見つめながらしばらく何事かを思案していた。
そして顔をあげると、ゆっくりと電話が置いてある部屋へと向かった。

バス・ルームからはシャワーの音が漏れ聞こえている。
その手前の部屋に取り付けられた洗面台のまわりには、それぞれの用途を持った化粧品類が散らばっていた。
その側には、長い髪のかつらが放り出されている。
ゴミ箱のなかには、それらを包んでいた包装紙が放り込まれていて、そのなかには幾枚かのポラロイド写真も混じっていた。

一方の壁によせてライティング・テーブルが置かれていて、その上にはポラロイド・カメラがのっている。
ポラロイド・カメラの置かれたテーブルの上を、一瞬強い海風が横切った。
その風によって、一枚のポラロイド写真がひっくり返ってカーペットの上へと落ちた。
そこには、素肌に白いシャツを羽織った彼の姿が写っていた。
そしてその上には、大きくバッテンがつけられていた。




2002/5/27/MON
[一枚の白いシャツ] vol.2
「女の人って強いよね」
「もう新しい人がいるみたいなんだ」
「別れるときは、あれだけこじれたのにね」
彼の目はいくぶん寂しそうだ。
「あの時のおまえはずいぶん荒れてたからな。もうだいぶ落ち着いたようだけど」
「でも、今でも彼女のことを想ってる」
「自分から壊しておきながらね」
まるで僕の言葉が聞こえなかったかのように、
彼はカップを持ち上げると底のほうに残っていたコーヒーを飲み干した。

「男と女の違いってなんだろう」
彼はテーブルに頬杖をつきながら、僕にそんなことを訊いてきた。
僕は少しの間その質問について考えてみて、そして思いつくまま口にだしてみた。
「子供を産める」
「身体に時計を持っている」
「男は子供を育てるために、ミルクを手に入れなければならない」
「ゴツゴツとしたラインとやわらかなライン」
「男は力持ち」
「女はトイレが近い」
そこまで言うと僕はまた少し考えて、そしてとりあえずのオチをひねり出した。
「男は女になりたがるが、女は女になりたがる」
「異議なし」
彼は軽く右手を挙げて賛同の意を表した。

「人工授精ってあるじゃない?あれってすごいよね」
いきなり彼は切り出した。彼はいつもいきなりだ。
「?」
僕は疑問符をつけたまま黙って先を促した。
「だって女の人は自分の身体を使って、
そこから生まれてくる子供をコントロールできるんだよ。
冷凍保存された精子を選んでさ」
「それってある意味、人類をコントロールしようとしているってことだろ?」
ウェイトレスが無表情な笑顔でコーヒーのおかわりをうかがう。
彼は軽くうなずいて、空になったカップを差し出した。
「でも、それは人工授精云々だけでなく、子供を作るということすべてが
そういうことなんじゃないの?その方法論が異なるだけで」
僕は彼に反旗をひるがえす。
「一方は試験管のラベルを読んで、そしてもう一方はしっかり自分の心で確認して」
「要するに、人類は女の人によってコントロールされてきたし、
そしてこれからの未来も女の人によって作られる」
そう言いながら、僕はパチンと指を鳴らした。

「そうか、大変だな、女の人は。責任重大だよ」
彼はおもしろがって、僕を煽り立てる。
「そう、女の人は大変なんだよ。とっても」
「だから、できるだけ男は女の人を大切に扱わないといけないし、リスペクトしなくちゃいけない」
「そして、素敵な未来に向けて僕らはお互いに協力していかなければならないんだよ」
彼はそんな少しテンションのあがった僕を見て、おかしそうに笑っている。
そして、笑いながらこう言った。
「でも、それって遺伝子には優劣があるってことを前提にしているよね。
まあ、個々の遺伝子間では何らかの違いはあるんだろうけど、
果たしてそこまで大きな違いになるんだろうか。
要するに適者生存。ダーウィンの進化論」
「更にその理屈だと、最終的な選択権は初めからすべて女性の手に委ねられていることになる。
男に責任はないのかな?」
そう言われて、僕もつい考え込んでしまった。
でも、ハッと思いついて彼をにらみつけた。
「ちょっと待って。最初にそういうことを言い出したのは、そもそも君じゃなかったっけ?」
彼は一瞬まじめな顔つきになると、あらためて僕に向かってこう言った。
「そう、だから人工授精はすごいと言ったんだ。
つまり男からは完全に女性への選択権がなくなってしまうことになりかねないんだよ」
彼はなみなみとコーヒーの注がれたコーヒーカップを持ち上げた。




2002/5/21/TUE
[一枚の白いシャツ] vol.1
先ほどからずっと、右手に海が続いている。
彼は車に乗ってからというもの、いつにも増して無口だ。
そんな空気を微妙に察知してか、彼女も窓外に流れる海岸線を静かに眺めている。
その彼女は今、よく洗い込まれた白いオックスフォードのシャツを着ている。
昨日までは彼が着ていたものだ。
海から陸地へと吹いている風が、ときおり車のなかを通り過ぎていく。

「思ったより素敵なところね」
テラスを取り囲む手摺りにもたれながら、彼女は彼に向かってそう話しかけた。
「海からの風が気持ちいいわ」
彼女はその匂いをかぐように、目をつむりながら海風を顔全体でうけとめた。
一通り部屋の点検を終えた彼が、テラスへと出てきた。
そのテラスには、あまり用をなすとは思えない白くて丸いテーブルと、
それとセットになった白いパイプ椅子のようなものが二脚ほど、置き去りにされていた。
「ここからだと夕焼けはちょっと無理だけど、朝焼けはきれいに見えると思うよ」
「そう?それじゃ明日は早起きしなくちゃね」
彼は彼女と並んで手摺りにもたれると、遠く水平線を見つめた。

翌朝、彼女はその言葉通り早くに目を覚ますと、そっとベッドを抜け出した。
下着姿の彼女は、部屋のソファにかけられていた白いシャツを取り上げると
軽くその上に羽織った。
彼女には長すぎるその袖を二三度折り曲げると、前にあるボタンをいくつか合わせた。
そして、昨日と同じようにテラスの手摺りにもたれかかると、
目の前に広がりはじめた朝焼けを見つめた。

彼女が起きてから間もなくして、彼も朝日のなかで目を覚ました。
ヘッドボードにもたれかかると、彼はテラスにいる彼女を見つめた。
朝日のなかにいる彼女は、いつにも増してきれいだった。
ストンと落ちた肩と、シャツの裾から伸びた足。
やわらかな陽の光を透して彼女の腰のラインが浮かび上がる。
それから彼は、彼女の喉元から胸のふくらみへといたる陽に焼けていない
真っ白な素肌を思い描いた。
それは、ボタンをとめずに大きく開かれている白いシャツからのぞいているはずだった。
そんな彼女の姿を静かに眺め続けた。

「ねえ、起きたの?」
「朝焼けがとってもきれいよ。こっちに来たら?」
何かの拍子に振り返った彼女は、彼が既に起きていることをみとめると、
そういって自分の方へ手招きした。
「朝焼けがとてもきれいよ」
彼がとなりに立つと、彼女はもう一度そう言った。
「朝焼けを見たのって何年ぶりかしらね」
彼は朝焼けではなく、彼女の立ち姿を見つめた。
「そのシャツとても似合ってるよ。きれいだよ」
彼女は、少しびっくりした表情で彼に向き直った。
「あら、どうしたの急に。そんなこと言い出して」
「そんな優しい言葉を投げかけてくれるなんて、何年ぶりかしらね。
でも、素直にうれしいわ。ありがとう」
「今日は何か特別な日なのかしら」
そう言って彼女は笑った。

------- つづく




2002/3/13/WED
[ネクタイ]
そこは、階段を降りてすぐのところが入り口となっていた。
僕はクラス・メート数人と連れだって、卒業式パーティの二次会へと向かった。

フロントを抜け踊り場にでると、すぐにフロア全体を見渡すことができた。
所在なげにそこに立っていると、ちょうど真向かいの方から、
大音響の合間を縫って僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「XX君!」
その薄暗い店のなかで、僕は声がした方を注意深くうかがった。
するとそこには、大きく手を振りながらこちらへ向かって駈けてくる、彼女の姿があった。

「XX君久しぶり!」
「元気だった?」
「そっちこそ、あいかわらず元気そうじゃん」
僕は内心あせりながらも、なんとか平静を装うとして、努めてクールな声をだしていた。
「もしかしたら、私たちって中学の卒業式以来?」
「あっ、そうかもしれない」
髪の毛が伸びた彼女は、とても大人びて見えた。
そして、ほんのりと香水の匂いがした。
「XX君、変わらないね。でも、ちょっとだけカッコよくなったかな。ちょっとだけね」
そういうと彼女は、いたずらっぽい目をして笑った。
「それより、私はどう?」
「変わった?大人になった?」
僕はあらためて彼女をチェックするしぐさをして
(本当はそれまでの間に充分に確認していたのだが)、努めてクールに答えた。
「うん。なんだかずいぶん大人っぽい感じがするよ」
「でも、話し方はぜんぜん変わらないけどね」
「それだけ?」
上目遣いで彼女が僕を見つめる。
この目によわいんだよなあと思いながらも、
僕は彼女が期待しているであろう言葉をなげかけてあげた。
「まあ、とりあえず、きれいにはなったかな」
「前にくらべるとね」
その時の僕にとっては、それだけを言うのが精一杯だった。
「何よ〜、とりあえずって」
「それに、前にくらべるとってどういう意味よ」
彼女は軽くほっぺたをふくらませる仕草をした。
「まあまあ、そう怒るなって」
「これでも充分にほめてあげてるんだから」

僕は彼女とのそんな会話を楽しみながらも、
以前にも増してずっときれいになっている彼女との突然の出会いを、とてもうれしく思っていた。
というか、かなり舞い上がっていた。

しばらく彼女との昔話に花を咲かせていると、彼女の名前を呼ぶ声がきこえてきた。
何度目かの呼びかけに対して彼女は軽く返事をすると、僕にむかって
「ごめんね。友達がよんでるみたいだから。ちょっと戻るわね」
「またあとでね」
と言って、もといた方へと駆け戻っていった。

途中、彼女は僕の方へ振り返ると
「とりあえず、卒業おめでとう」
といってピース・サインをつくった。
僕もまけじと「おたがいにな」といって、わけもわからずピース・サインを返した。

彼女が立ち去る姿を見送りながら、僕は中学生の頃のことを思い出していた。

「ごめんね。XX君も知っていると思うけど、私、付き合っている人がいるの」
「だから、XX君とは付き合うことができないの」
「ほんとにごめんね」
それが彼女の答えだった。
その後、僕はなんとかそのショックから立ち直り、彼女とはそれまでと同様、
なんとなく仲の良い友達同士にもどっていった。
そして、中学の卒業式の日、彼女と僕は正門でばったりと鉢合わせた。
「XX君、そのネクタイちょうだい」
彼女は、僕に向かいあうなりそう言うと、上目遣いで僕をみつめた。
ちなみに、そのころ僕が通っていた中学では、ブレザーにネクタイというのが、
男子の制服だった。
そして女の子にとっては、卒業式の日に好きな人のネクタイをもらうということが、
ちょっとしたセレモニとなっていた。
僕はとても照れながらも、まんざらでもないなといった感じでネクタイを外すと、
それを彼女に手渡した。
「ありがとう」
彼女は、それを大事そうに胸にかかえると
「卒業おめでとう」
と言った。
「XX君とは高校は別々になっちゃうけど、これからもずっといい友達でいてね」
「私、このネクタイはきっと大切にするからね」

そんな淡い思い出を思い出しながらも僕は、
そういえばあのネクタイはどうしたんだろうとぼんやり考えながら、
無意気のうちに襟元に手をやった。
本来であれば、そこには、その日のために奮発して買った
アルマーニのネクタイがあるはずであった。

「!!!」
「無い!」
「ネクタイが無い!」
「アルマーニのネクタイが無い!」

僕は、あわててそこら中を見渡した。
でも、そんなものを無意識に外すわけもなく、僕の頭のなかは突然パニックに陥った。
そんななか、ハッと思って出口の方を振り向くと、そこには満面笑みの彼女の姿があった。
そして、その彼女の右手にはしっかりと僕の(アルマーニの)ネクタイが握りしめられていた。

「今日はどうもありがとう」
「アルマーニなんてまだ似合わないわよ」
「またね」
彼女はそう言うと、力強くVサインをおくった。




2002/2/19/TUE
[アイアム・ショコラ]
「私、実はチョコレートなのよ」
隣に座っていた彼女はそう言うと、少し悲しそうにグラスをかたむけた。
その時の僕は、それまでつきあっていた女の子にふられた直後で、
前後不覚になるほど酔っぱらっていた。

「何もバレンタインの日にふらなくてもいいじゃないか」

そう別れた(別れられた)彼女のことを思いながら、
一人バーのカウンタでウイスキのストレートを飲んでいた。
そんなところへ、彼女はあらわれた。
最初は、お互いに自分の世界に入り込んでいた僕らだったが、
いつのまにか二言三言、会話をかわすようになっていた。
そんな会話のなかで、彼女は突然そう言ったのだった。

すでに充分過ぎるほどの現実逃避に入っていた僕は、
彼女の話を受け止めてみるのも悪くはないなと、隣の方へいくぶん身を傾けた。

「だから、私この日はとても悲しいの」

「だって例え好きな人がいたとしても、チョコレートを渡すことができないのよ」

そういうと彼女は、コアントローの入ったロックグラスを口にはこんだ。
そしてそれをテーブルの上に戻すと、カシャンと氷の音が鳴った。
なぜ、チョコレートを渡すことができないのか、僕は酔った頭で聞いてみた。
すると彼女は

「あなたって何もわかってないのね」

といった感じで軽く頭を左右に振ると、
一語一語かみくだくようにゆっくりと説明しはじめた。

「つまりね、私にとって好きな人にチョコレートを渡すこと、
 イコール、私自身を渡すことになるのよ」

「そして、その人がチョコレートを嫌いでない限り、
 私はその人に食べられちゃうことになるの」

「そして、私はそこでおしまいになってしまうの」

「じゃあ、とにかくチョコレートが嫌いな人を見つけちゃえばいいんだ」
僕はいそいで彼女の言葉を遮ると、ちょうどそれがとてもいい名案だとばかりに、
彼女にむかって伝えてみた。

彼女は再び「あなたって本当に何もわかってないのね」といった感じで僕をみつめ、
そして今度は本当にそれを口にだして言った。

「ねえ、私はさっき自分はチョコレートだと話したはずよ」

「どこの世界にチョコレートは嫌いだけれども、
 でも私のことは好きだよなんて思ってくれる人がいると思うの?」

「もし仮にそういってくれる人がいたとしたら、その人こそ本当のペテン師よ」
今度ばかりは、僕もそれなりに考え込んでしまった。
でも、しばらくするとまたまた名案がひらめいた。

「じゃあ、いっそのこと外国に住んでしまえばいいんだ」

「確か、バレンタインにチョコレートを贈るのは、
 日本などのごく限られた国だけだって聞いたことがあるよ」

「逆に外国だと、男の人が女の人にプレゼントを贈るみたいだよ」
彼女は、僕の言葉に少しだけ微笑みをみせたが、
でもまたすぐに悲しそうな顔にもどってしまった。

「私もそれは考えたわ」

「何日も寝ずに考えて、しまいには目の下に隈ができてしまったほどよ」

「でもね、やっぱり私は、身体はチョコレートだけれど、でもその前に日本人なのよ」

「だから、結局最後は日本人としてバレンタインを過ごしたいという結論に達したの」

「悲しいことにね」
カウンタの上においてあった僕のタバコのパッケージから、
それを一本ぬきとると、彼女は自分で火をつけて、そっと煙をはきだした。
その煙は、今までの会話のようにどこにも行き場がないまま、
僕らの間をゆらりゆらりと漂っていた。

それからしばらくして「明日もはやいから」といって彼女は席を立っていった。
そして最後に僕の頬へ唇をよせて、

「今日はどうもありがとう」

といって軽くキスをしてくれた。
その彼女のキスはなんとなく甘そうな感じがした。

彼女がいなくなった後、僕は混濁した頭で考えた。
「これって義理チョコ?」




2001/12/27/THU
[12月25日マイバースデー]
部屋の窓から空を見上げると、どんよりとして暗い。
今にも雨か雪が降り出してきそうないきおいである。
今日はちょっと風邪ぎみだから、マフラーでもしていこうかなと思う。
でも、これがやってみると、なかなかうまい具合に決まらない。
しばらくのあいだ悪戦苦闘したあげく、結局マフラーを巻くのはあきらめて外にでる。
そしたら、さっきまでマフラーをしていたせいで、よけいに首もとが寒く感じられる。
少しでも寒さを紛らわそうとウォークマンのスイッチをいれると、
これがバッテリ切れのまんまで、あわてて近くのコンビニまで予備の電池を買いに走る。

途中電車のなかで、いつもなら楽に座れるはずなのに、今日に限っては人で一杯。
しょうがないので、つり革につかまったままカバンから新聞を取り出そうとするが、またまたこれがうまく取り出せない。

満足に新聞も読めないまま、やっとこさ会社に着いて、いつもの受付の女の子に挨拶をしようと思ったら、なぜか彼女が見あたらない。
かわりにその前には守衛のおじさんが立っていて、ニコニコとみんなに挨拶を返している。
何か釈然としないままエレベータに乗り込み、そのまま自分の席へ。
ひとまずコートを脱いで、自分の端末を立ち上げてみると、さっそく何通かのメールが届いている。
その未読の数を見て一人ほくそ笑みながら、やっと自分の気持ちに日が差し込んでくるのを感じる。
「そうだよね」
「今日は特別なんだよね」
「今日はなんといっても僕の誕生日なんだからさあ」
とかなんとか言いながら、わくわく気分で最初のメールをあけると、そこには超現実的な文字列が。 「本日、13時より進捗会議があります。急な連絡で申し訳ありませんが、よろしくお願いします」   差し込みかけた日差しをどーんと厚い雲が遮る。
「なんでいつも通りに、明日やってくれないんだよお」
「なんで急に予定を変えちゃうのお?」
「ちょっとはこっちの都合も考えてよ」
などとぶつぶつ言いながら、頭の中では急いでこれからの午前中の作業をピックアップ。
おかげで、本当のハッピー・バースデイ・メールへのREを考える楽しむ間もないままに、午後の会議へ突入。

なんとか進捗会議に間に合うようにと、体裁だけとり繕った資料を持って件の会議室へ。
ドアをあけてまたまたびっくり。
そこには、いつもはいないT部長の顔が。
突っ込みどころを見つけると、容赦なくとことんやってくれるT部長のことである。
もし、それが今の自分に向けられたら、と思うと一気に冷や汗が。
今日のこれまでの流れからいくと、その可能性大である。
迷わずハラタイラに3,000点。

いよいよ会議が始まり、もうすでに何人かがT部長の餌食になっている。
あと1人おいて自分の番だ、と思った瞬間、胸ポケットの携帯がブルルと震えだした。
いつもなら、こんな時間に鳴るはずのない携帯に、疑問符付きのまま着信の表示を見てみる。
すると、そこには古くからの友人の名前が点滅していた。
シカトするわけにもいかず、まわりの心なしか白い目を気にしながら通話をオンにする。
いきなり流れ出す陽気な歌声。
「ハッピー、バースデエイ、ツウ、ユー。ハッピー、バースデエイ、ツウ、ユー。(以下同文)」
自分で自分の顔が一気に赤くなっていくのを感じる。
あたふたと、近くの反応を伺いながらも、僕はできるだけ身体をまるめこんで小声でつぶやく。
「悪い、今、会議中なんだ」
と、同じ言葉を二、三度ほど繰り返す。
歌が鳴り止み、しばし無言の後
「えっ!」
「もしかして、今、俺ってものすごく間抜け?」
それには答えずに
「後でまたかけ直すから」
「じゃ、また」
間髪入れずに電話を切ろうとする僕に、彼は続けてこう言った。
「え〜、また歌うのお〜」
小声でぼそっと
「まあ、いいけど」

ウケた。
最後の言葉が。
ツボに入ってしまった。
それまでの僕の緊張感は、あっという間に吹き飛んでいってしまい、その後には彼の「また歌うのお〜」の言葉だけが、いつまでもこだましていた。

それからのその会議は、僕にとってまさに生き地獄になったことは言うまでもない。




2001/11/26/MON
[キザ]
電車のなかで僕の真向かいに座ったカップル。
ちょうど社会人1年目といった感じ。
これから二人とも、男の子は男性に、女の子は女性に変わりはじめようとしている時期。

グレーのスーツに白いシャツ、それにブルーのネクタイを締めた彼氏と、黒いコートを身にまとって、そこからのびたすらりとした彼女の足はストッキングに包まれて。
彼女の受付嬢風にきちんとそろえられた膝の上には、とりあえずブランド物のハンドバッグが。
二人ともそれ相応にシックな格好。

ちょっと勝ち気な瞳をもった彼女と、まだ端々にいたずらっぽさを残しつつも、ちょっと自身も有り、といった感じの瞳を持った彼氏と。

そんな二人を見ていると、自分にもそんな時期があったよなあ、と少し自分と重ねて見たりして。
僕は僕なりにしばし回想の旅へ。

そこでハッと思った。
「俺ってもしかしてもうすでにオヤジ?」

まあ別に自分がオヤジになったことくらいでは何の感傷もわかないけれど、ただ、もう二度とあの時のような思いは味わえないんだなあと。
少しだけセンチメンタルな気分。

そんなことを友達に話していたら、そいつはこう言いました。
「でもね、失ってしまったものに対する悲しみもいいけれど、それよりもその前に、そういった思い出を作ってくれた彼女達に感謝しなきゃ」

思いっきりキザなセリフをこうもどうどうと言われちゃうと、僕としてもただただ唖然とするだけで、返す言葉もなかったけれど、でもそれも一理あるなと思ったりして。

更に、そいつは付け加えてこうも言いました。
「そして、これから出会うであろう女の子達に対しては「どうぞよろしくお願いします」と言いたいね」

「お〜い、誰か来てくれ〜」




2001/10/30/TUE
[街で見かけた綺麗な彼女]
ちょっとした拍子にお互い目があえば、すかさず僕はかけよって
”Bonjour,Mademoiselle”

彼女の大きな瞳が驚きで更に大きくなって。
それでもにっこり笑って
「あなたこそ、ご機嫌いかが?」

そんなこんなで、お互い日差し射し込む午後のカフェ・テラスでアフタヌーン・ティ。
ときおり小首をかしげる彼女の仕草に、僕の心はときめいて。
意味もなく煙草に火をつけてみたり。

いつになく饒舌になった僕の話を、彼女は真剣な眼差しで受け止めて。
思い切って僕は彼女に訊いてみる。
「犬と猫、どっちが好き?」

僕には、どっちの答えが返ってきたとしても、百万通りの口説き文句が用意されている...。
はずだった。

でも、そうやって待ちかまえていた僕に彼女が返してきた言葉は
「私、クラゲが好きなの」

(しばし空白)

「???」と思いながらも、僕はとりあえず冷静さを装って
「クラゲってかわいいよね」と言ってみたりして。

にっこり笑う君。